夏影
〈でも〉


千影は首を振った。


〈お兄ちゃんがそんなこと、するわけないもんね。しかも私相手に。手を出したりなんか〉


そう思い直し、ドアへと向かった。


「今開けるね」


ガチャリとドアノブを捻り、開けるとティーシャツにスウェットパンツの勇人が立っていた。


「わり。千影、勉強してた?」


「うん、明日もテストだしね。お兄ちゃんも?」


「そう。今、英単語と格闘中」


千影はふふっと笑った。


「そんでさ。悪いけど、英和辞書貸してくんない?学校に忘れたみたいなんだ」
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