夏影
千影は、絆創膏を貼られた右手を見た。

「先生…ありがとうございます」


「うん」


竹本は消毒液を棚に戻すと、改めて千影の前の椅子に座った。


保健室は窓が開いていた。

校庭からは、放課後ということもあり部活動をする生徒たちの声がしている。

セミの声も、夏真っ盛りの時よりは少し少なくなった感じだ。


「先生…?どうしたんですか」

「篠崎。本当に困ってないのか?北野たちとの事、さすがに担任だから薄々は気づいてるぞ」

千影は目を伏せた。


「お前が言いたくないなら、いいんだ。無理には聞かないよ。でも、俺がいることをいつでも忘れるな。話を聞くだけでも、力になりたい」


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