夏影
「さて。篠崎は何か目指してるものある?やりたいこととか、進みたい道とか」

進みたい道………。

〈そんなの、あるのかな。あたしが進む道。〉


千影は想像出来なかった。未来は浮かばない。


〈友達もいない、嫌がらせもされたりしてるあたしが進むべき道?〉


フッと自嘲気味に笑う。

竹本は見透かすかのように、何も言わず千影を見ていたが、

「俺はね、篠崎には進学を薦めたい」

と言った。


「今、まだやりたいことないんだろ?いいんだよそれで。高校卒業したあと4年間、さらにゆっくり考えてみたら?一生に1度の良い時期だよ、ハタチ前後って」


保健室の窓から、風がサァッと入った。
もわっとした空気が一瞬取り払われる。

「俺も、教師になるまではけっこう悩んだよ」

千影は竹本を見た。

「篠崎は」

竹本が続ける。


「本当は情熱的だと思うけどな」
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