9歳差は、アリですか?
電車の揺れ具合が酔っている体にちょうど気持ち悪い振動を与えてくる。なんだか吐きそうだ。

一応ハンカチで口元を押さえ目を瞑る。
ーーーーー早く早く早く、忘れたい。

そう思ったのに、携帯が震えた。

『浅岡悠』

ウソなんでっ⁉︎ディスプレーに表示された不可解な名前に立原は目を見開いた。なぜ、振られた筈の立原に浅岡が電話をかける用事があるのか。

ああ、きちんと振られていないから、お別れの挨拶か。

そう思った途端自嘲する笑い声が漏れた。あたし9歳も下の子に気ィ遣われちゃったのね。

そして自然と通話ボタンへと指を動かしていた。恐る恐る携帯を耳に当てる。

「ーーも、もしもし」
「あ、涼子!俺、悠。今どこ?」
「電車…」
「家、今から行ってもいい?」

ついに最後か。ーーしかし、別れ話、したくない。

「ーーーごめん、ちょっと今日は無理かな。ま、また今度でいい?」

無意識のうちに先延ばしを選んでいた。幾ら嫌われていたとしても、立原はまだ浅岡の事が好きだ。だから、少しでも浅岡の恋人でいれる時間が欲しいと本能的に逃げてしまった。

それでもいい。「分かった。また連絡するね。涼子も仕事疲れてるのにごめんね、お疲れ様」なんてできた事を言ってくれるのだから、嫌いになりたくても無理だ。

電話を切り、背もたれに深く沈む。まだ、もう少しだけ、彼女でいたい。立原はゆっくり目を閉じた。
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