9歳差は、アリですか?
店を出て上を向く。日が短くなっていてまだ夕飯時にしては早いくらいの時間だが薄暗くてよかった。泣いてしまいそうだ。
しかし歩き始めて数歩で止まってしまった。いくら振られた相手でも、まだ好きな人であれ程綺麗な人だ。男はほっとかない。暗くなってきたしそれなりに危険だ、路地でより危ない。
振り返り店の入り口を見た。

✳︎

立原は机に置かれたお金をじっと見つめ、さっき自分が言った言葉を反芻する。ドライと言われる自分でも言われたら傷つくような酷い言いようだ。
しかし、本当のことは言えない。言ってしまったら、絶対に浅岡は律儀に待ってくれている。他の人と恋して欲しくないが、アラサー立原とは違って浅岡はまだ未来のある高校生なのだ。
年増が縛っておくような人材ではない。思わず涙が溢れそうになる。

好き

声にはならない。

好き

声にできない。

「好き」

別れたくない。自分から別れようと勝手な理由で言っておきながら最低な事を言って傷つけているのに、なんとも自分勝手だ。
好き。
反射で立ち上がり、お札を無造作に置き、店員の声を後ろで聞きながら店を飛び出した。
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