幻恋【続】
不思議だったから名前を呼ぶと、川崎君がゆっくりと振り返った。
「美浜…」
川崎君が静かに私の名前を呼んだ。
これって、ま、まさかいきなりキス!?と思っていた私の予想は、またしても一瞬にして打ち砕かれた。
「…もう二度と、こんな事すんな」
「えっ…」
川崎君から言われた言葉は、これだけで、しかも凄く怖い顔をしていた。
「川崎君…な、んで…っ」
悲しくて、凄く凄く辛くて、泣きそうになってしまう。
なのに、川崎君はそんな私に見向きもせず、そのまま背を向けて、慌ててどこかに走って行ってしまった。
Aちゃんを追い掛けて行ったのかな。
教室に取り残された私は、一人静かにしゃがみ込んで泣き崩れた。
あんな怖い顔の川崎君を、初めて見た。
あの震えてしまう程の怖い顔と怒りは、私に向けられたものなんだと思うと、とても悲しくて、辛くて………
暫くして、私は泣きながら、一人で校門を出た。
当然ながら、少しでも帰って来る事を期待していた彼は、川崎君は帰って来る事は無かった。
その時は、とにかく悲しくて……一人で泣くしか無かったんだ……。