幻恋【続】
3[紗耶香side]
「失恋でもしたのぉ?」
卒業生のある先輩が、部活に久々に顔を出した時に、私にこう言った。
私はこの時に、笑いながら否定したけど、正直、かなり胸が痛かった。
…先輩の言っている事は、図星。
でも、言えなかった。
何故なら失恋した相手は、今目の前にいる先輩……春華先輩の彼氏だから。
…一年前の三学期。
当時二年生だった私は、3月の始めに、卒業を間近に控えたある先輩に告白した。
川崎寧人先輩。
最初に恋に落ちたのは、夏の部活の時。
7月、吹奏楽部の練習をしながら、私はいつも窓を見下ろしていた。
グラウンドでは、陸上部の選抜メンバーが、総体に向けて練習していた。
その選抜メンバーの一人が、川崎先輩だった。
先輩の参加種目は1500m走。
パンッとピストルが鳴り、川崎先輩が真っ先に走り出した。
走る度に合わせて流れるように揺れるサラサラの髪、額に流れる汗、真剣な瞳………颯爽と走る先輩の全てに、私は一瞬にして恋に落ちてしまったのだ。
川崎先輩の熱心なその姿を、いつも目で追ってた。
そして3月の始め、何も知らない私は、川崎先輩に告白した。