小さな恋物語
藤川くんは隣のクラスで、2年生になるまで喋ったこともなかった。きっかけは些細なことで、私がうっかり体操服を忘れたときに藤川くんのクラスにいる友達に借りに行って。
そのときに藤川くんに声をかけられた。
『名前、教えてくれませんか?』
藤川くんは高校生にしては童顔で、友達曰くたれ目とくしゃっとした笑顔がチャームポイントらしかった。喋り方も男子のわりにはゆったりしていて穏やかで、性格も優しいからモテるけど恋愛対象というよりはマスコット的な位置付けだと後に知った。
名前を聞かれた数日後の昼休み、藤川くんがやってきた。脇目もふらず一直線に私の席に。
『ほのちゃん』
私はその時、クラスの友達とお弁当を食べ終えたときで。私よりも友達の方が藤川くんがやって来たことに驚いていた。何せ私は男っけがまったく無かったから。
『僕のこと覚えてる?』
『藤川くんだよね』
『良かった~、覚えててくれて。一緒にお菓子食べない?ほのちゃんと話してみたくて』
呆然とする私の代わりに友達が勝手に答えてしまった。もちろんいいに決まってるじゃん!って。
それから藤川くんは毎日やって来る。