小さな恋物語
「ありがとうございました」
冷たい風と空気から逃れるようにして入った店内はいつもと同じように賑わっている。もう21時を過ぎていて、普段なら結構空いているのにさすがクリスマス。
「いらっしゃいませ」
「カフェモカください」
「いつも通り?」
「うん」
ショートカットでほんのり赤味がかった茶色の髪の毛、笑うと右のほっぺに笑窪が出来る。
俺の大学の友達の友達、望花(もか)。
ちょうど一年前のクリスマス、そいつに連れられて初めてここに来た。早い話が一目惚れ。何とか連絡先を交換して、遊びに行ったり食事をしたりしているけれど、俺はまだ肝心なことを言えていない。
望花は俺が注文したカフェモカをテキパキと作っている。何も言わなくてもサイズもカスタマイズも覚えている。時々違うメニューを頼んでも、それもちゃんと覚えていて。
俺なんて全然常連じゃないのに覚えていてくれるから、勘違いしてしまいそうになる。
もしかして俺のことを…って。男はどこまでも単純な生き物だから。