小さな恋物語



「何食う?」

「もう食べられれば何でもいい。お腹空いちゃった」


駅前もまだ人が多くて、やっぱりカップルが多い。俺達もそういう風に見えてるのかな…。

隣にいる望花に目をやると、手を擦り合わせて寒そうにしていた。


「望花、手袋は?」


いつも使っている白いモコモコした手袋。


「忘れちゃったの。今朝急いでて」


こういうとき、スマートに手を握れる男ならモテるんだよな。でも俺は苦手だから。

自分の右手の手袋――茶色のスエードのやつを望花に差し出した。


「貸してあげる」

「どうして片っぽ?」

「それは…」


この一年、勇気が出なくて言えないままで。

今日を逃したらもう一生言えないままになるような気がしているのに。
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