小さな恋物語
「なぁ、次の休み、空けといて」
瑞樹が立ち上がってしまって背中しか見えない。
だけど声色から少し緊張していて、少し照れていることが分かる。
こんな細かいことが分かってしまう私も、瑞樹のことを一番よく知っているということになるのかな?
「…映画?瑞樹は連れて行かないもん」
「ばか。俺が連れて行くんだよ。今日だってそのつもりだったのに…。言っとくけどデートだからな。オシャレして来い!じゃあな!」
吐き捨てるように言うと瑞樹は部屋を出て行ってしまって、ドドドドドと階段を駆け下りる音が聞こえてくる。
デートって…デート?付き合ってる人がするやつでしょ?
「おばちゃーん!俺、芽々と付き合う!よろしく!お邪魔しました」
「えっ、ちょっと何?!瑞樹くん?」
玄関のドアがバタンと閉まると同時に私は急いで窓を開けた。
「コラァ!瑞樹!勝手なこと言うな」
「元気あるじゃん。もういいだろ、結局最後はこうなって落ち着くってことで」
くしゃくしゃの飾り気のない笑顔で、瑞樹が偽りなく笑っていることが分かる。
家に帰って行く瑞樹の背中を見ながら、本当は昔からずっと瑞樹を好きだった気持ちを解放した。
End