小さな恋物語



「杏、何かあった?」


私を真っ直ぐに捉えて、ひどく真面目な表情をして聞く。


「何か、って?」


悟られないように、出来る限り明るく返した。


「顔。すげー顔してたから、さっきまで」

「どんな顔よ」


力が抜けて笑ってしまうと亮もつられて笑い出した。

亮はいつもそう。


学生時代から私が体調が優れないとき、悩んでいるとき、落ち込んでいるとき。


誰にも言っていないのに、そんな素振りを見せているつもりもないのに、誰よりも真っ先に気づいてしまう。

そしてそれを周りに気づかせないように、私をそっとフォローしてくれる。


「せっかく会ったし、メシ食ってく?奢ってやってもいいぜ」


亮は人懐っこい笑顔を見せて、明るく聞いてくる。
私に気兼ねをさせまいと。


「…優しくしなくていいから」
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