小さな恋物語
「藍。着いたよ。起きろ」
「…うーん」
肩を揺すられて、ぼんやりとした意識のまま目を開けると眩しい光が射し込んでいた。
「…えっ、雄也?」
目の前には海が広がっていて、隣にはサイドブレーキを引く雄也。
「たった数時間前の事も覚えてないのか。仕事のし過ぎだな」
雄也は、そんな大人になったらいけないんだよと笑いながら言っている。
こんな風に何もせずに朝日を浴びること、最近あったかな。夏の夜明けが早いということすら忘れていたような気がする。
「ほら、早く降りろ。お前は目いっぱい太陽の光を浴びて光合成した方がいいんだよ」
「光合成って…。起きたばっかりで動けないよ」
ゆっくり伸びをすると、凝り固まっていた体が解放されていくような気持ちになった。
昨日は本当に、今までの人生で一番最悪な一日で。そんな私を心配して連絡をくれた雄也に真夜中に引っ張り出されて、私は今ここにいる。