小さな恋物語




昼間はあんなにいい天気だったのに。気づいたら空は薄暗くなってきて、どんよりとした厚い雲に覆われた。

窓に打ち付ける横殴りの雨と暴風、それから鳴り止まない雷。
今年初めての台風はとんでもなく強くて、当然交通機関は麻痺。電車は全て止まっている。


雷が落ちたかも知れない轟音が鳴り響いた時、インターホンも鳴った。
何とも言えないタイミングにビクッとしてしまう。


画面に映し出されていたのはびしょ濡れの樹(いつき)だった。


「樹?!」

「早く入れて!俺死んじゃう!」



急いで玄関に向かって鍵を開けると、雨と風が吹き込んでくる。
樹は頭のてっぺんからつま先までびっしょり。


「良かったわー、お前が家にいて」

「ちょっと待ってて。バスタオル持ってくる」


マジやばい雨だからね、と樹の大声がする。バスタオルを持って戻ると、樹は自分を、私は樹のリュックを拭く。教科書だってたくさん入ってるだろうにずぶ濡れだ。
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