小さな恋物語



「樹、帰りそびれたの?」

「今日、ガッツリ講義あったから。サボって帰ろうかと思ったけど単位落とすとヤベーし。母ちゃんに迎えに来てくれって電話したんだけと、俺まで手が回らないんだと。電車も止まってるしバスなんて待っててもいつ乗れるか分かんねーじゃん。あ、風呂貸して」


樹は矢継ぎ早に言うと、びっしょり濡れた靴下を引き剥がすように脱いで足を拭いている。樹の家は年の離れた弟と妹がいるから、お母さんは二人の迎えで手一杯なのかも知れない。


「それはいいけど着替え―――」

「俺のリュックが無事なら中の袋に着替えが入ってる」

「何で」

「友達の家に泊まりに行く予定だったから」


樹がお風呂に入るとすぐに濡れた衣類を洗うために洗濯機の電源を入れた。傘も意味がないくらいの暴風雨のせいで何もかもびっしょり。


「樹!リュックの中も少し濡れてるけど中身出していい?」

「マジで?!全部出しといて!」


リュックも浴室乾燥機にかければ乾くかな…。
中から出てきたのは教科書やペンケース、パソコンにスマホ、それからコンビニの袋。


「香帆、ちょっとさ、パンツ持ってきて」

「パンツ?!」

「着替えと一緒に入れてきたから」


着替えの入っていた袋を見ると、確かにパンツ…。それからなぜかカップ麺。

洗面所のドアを少し開けて、中を見ないようにしてパンツを渡した。
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