小さな恋物語
「ごめんね、急に来ちゃって」
樹はカップ麺をすすりながら言った。構内で電車がストップした事を知った樹はすぐに家に連絡したものの、やっぱりお母さんは弟と妹の迎えに出なければならないらしく、ましてやこの大雨の中では大学まで迎えに行くのは無理だと言われたという。
土砂降りの雨を見てどうしようかと友達と話し合っていたものの、仕方ないから大学に泊まるとか近くに住んでいる友達に泊めてもらうとかそれぞれ決めて別れたらしい。
うちは大学から3駅、振り替えのバスに押し込まれるように乗って、ひたすら歩いて辿り着き、偶然私が家に居て助かったと樹は熱弁した。
「翔平なんてあいつ電車で一時間もかかるじゃん、親父に迎えに来てもらうって言ってたけどどうなったか」
このカップ麺は樹の友達の翔平くんに貰ったそうで、その翔平くんはまだ大学にいるとLINEを見せてくれた。
「今日バイト無くなったから、偶然とはいえ人助けになったね」
「マジ助かる。あ、お前さ、今は彼氏いないんだっけ」
「いないよ」
「それも良かったわ。彼氏いたら俺今ここにいられないもん。殺されるよね」
確かに彼氏がいたらこの状況はかなりマズイかも。まぁ黙ってれば済む事はわざわざ言わないけど。でも私が逆の立場なら何もないとはいえ、いい気はしない。友達でもやっぱり男女だから。