小さな恋物語
「…香帆、おいで」
優しい声がしてタオルケットから顔を出すと、寝ぼけ眼の樹が布団の上に左腕を伸ばしていた。右手でそこを指さしている。
「俺のとこおいで」
…付き合ってるわけでもないのに。いいのかな。
私が黙ったままでいると樹は起き上がって私の腕を掴む。
樹に引っぱられてベッドから降りると、すぐに抱きしめられた。
何が起きているのか頭が追いつかない。
「俺、ホントはずるいことした」
「ずるいこと?」
「お前が結構前に雷苦手って言ってたの憶えてるから。今日家に帰れないのはホントだけど、帰れないってなった時に最初からここに来ようって思ってた。居ても居なくても。何でか分かる?」
樹が私をじっと見つめてくる。
「どうして?」
「ずっと好きだったから」
「…ずるいよ。私だってずっと樹のこと好きなのに」
樹の唇が私のおでこに触れる。
「一緒に寝よう。そしたら怖くないでしょ?俺がいるから」
「うん」
樹に抱きしめられてドキドキしたけど、好きな人の腕の中はやっぱり安心して、樹の他愛もない冗談でリラックスして、いつの間にか眠りに落ちた。
明日の朝起きたら、樹にもう一度言おう。
ずるい樹も好きだよって。
End