小さな恋物語
「シゲさん、何やってんの?」
俺より15cmも背の低い七未は、俺の横からひょっこり顔を出して手元を覗き込んできた。
手が離せない俺は足を使って防御していたのに。
もちろん、本気じゃないけど。
「お前は座ってテレビでも見てろよ。ココア出してやっただろ」
「もう飲んじゃったもん」
そう言ってむくれた表情で空のマグカップをシンクに置く。
七未は蛇口を捻って、マグカップの中に流水を注いだ。
汚れがこびりつかないようにそうしろと、俺がいつも口うるさく言うから。
七未とは家が隣同士の幼なじみで、幼稚園から高校まで全部同じところに通った。
大学は別れたし就職だって別々にしたけど、今でもこうして普通に俺の家に来る。
俺が居なくてもやって来て、俺の部屋で勝手に漫画を読んでいたりする。
親同士も仲が良く、うちの母親にしてみれば七未は娘同然。だから俺が居ようがいまいが、七未はこの家でくつろいでいるんだ。
今日は母親同士はショッピング、父親同士は釣り。
残された俺たちはなぜか一緒にいる。