初恋の人は人魚×アイドル!?
動き出す物語
それから二週間の時が流れ⋯⋯。
私もナギ宅での生活に慣れてきた。
「今日から六月だね~。梅雨ってあんたがたにとってはやばい季節だよね~」
「まあね。少しでも濡れれば人魚だしね」
そういいながらナギが着替えているのは制服。久々に一緒に登校できる。
ナギが着替え終わったのを確認して
「よしっ!じゃっ、いこ!」
といって私が玄関に向かおうとすると、
「女子の身支度がそんなに短くていいのかね⋯⋯。逆に心配⋯⋯」
と独り言のようにいったナギが大きくため息をつく。
ふん。どうせ、女の子じゃないもんね。
そう思った私はナギを無視して玄関にいくと外に出た。
「雨だ⋯⋯」
しかも段々と強くなってる。
あとからでてきたナギが雨をみてあからさまに顔をしかめた。
「⋯⋯サイアク⋯⋯」
「でも⋯⋯私結構雨好きだけどな」
なんて、私が場違いなことをいうとナギはめんどくさそうに
「ハイハイ」
といって傘をとってくる。
「これ、使って」
差し出されたのは緑と白のギンガムチェックの傘。
とても可愛いらしいデザインで丈夫そうだ。それに対してナギが持っているのは置き傘タイプのビニール傘。
こいつ⋯⋯自分が濡れたらどうなんのかわかってんのかね⋯⋯。
「私、こっちね!」
そういって若干無理矢理ナギの手からビニール傘をとる。
「なっ!?ちょ」
戸惑っているナギを差し置き私は駆け出した。
「ちょっと待てよ!」
そういってかけてくるナギから逃げるように走っていたら自然と笑みがこぼれだす。
でも、そんなほわほわとした暖かい気持ちもすぐに苦いものに変わる。
偽物だからって私は家から家族から逃げ出してこうやってナギと楽しく暮らしてーー。
ほんとうにこのままでいいのな⋯⋯。
マンションの外に出て雨を目前にした私はさっきまでの暗い気持ちも消えてテンションも上がってきている。
こういう、ころころ気分が変わるところは私の長所でもあり短所でもあると思う。
「雨、きもちいーっ!」
そういって雨に打たれて両手を広げる。
ん?なにこれ。雨に打たれて一分もしないで私の体に異常が起こった。
体の奥底から沸き起こってくる「泳ぎたい」という強い思い。海の香りが鼻腔をくすぐり⋯⋯
「え⋯⋯と⋯⋯?」
制服のチェック柄のスカートから雨に濡れてキラキラしているオレンジ色の魚の尾がでている。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「って、えええっっ!?」
「な!?お前!!」
後からやってきたナギが衝撃の表情になる。
「待ってて」
そういって器用に肩で傘を支えながら私をお姫様だっこするナギ。
「うっ」
すぐそこに端正な顔がきて思わずそっぽをむく。
「重いよねー。ごめんねー。」
などと棒読みでいう私の顔はおそらく真っ赤。
「あ、あのー、きいてます?」
そういってチラリとナギのほうをみやる。
私と同じく赤くなってないかな、なんて心のどこかで思っちゃってたけど現実はそうも上手くはいかないらしく、ナギはとても険しい顔でなにかをブツブツとつぶやいている。
ですよねー。私なんかお姫様だっこしたところで「重い」以外のなにものでもないよねー。
知ってるよ⋯⋯それくらい⋯⋯
なんとか家につくとナギが私を玄関におろす。
「ごめんね。これじゃ、遅刻だよね⋯⋯」
なんていってうつむくと気づいたらナギはいない。
なっ!人が謝ってる時に!!
そう思っていると頭になにかがあたる。ポトッと落ちたそれはタオルだ。
「はやくふきなよ。」
「⋯⋯うん」
なんか、こいつ冷たい。
理由に全く心当たりがないんだけど⋯⋯。ん?私の体重が重かったから?
だとしたらひどいんだけど!体重ごとき⋯⋯いや、ごときじゃないのか?なんて思いながらタオルで濡れた箇所をふいているとスーッと力が抜けていく感じがして、生身の人間の足がスカートからのびていた。
「やった!戻ったよ!」
そういって振り向く。
「良かったね。」
苦笑いでそういうから余計に不安になってくる。
「あの、ナ」
「今日からヨウの家にいって。」
「え?」
「今日からヨウの家で暮らして、ってそういうこと」
その鋭い声と何かを貫こうとする真っ直ぐな瞳にーー。
私は、またも頷くしかなかった⋯⋯。
「なにむすっとしてんの」
「別に。ナギくんがムカつくだけ。」
そういうと、ともちゃんはあからさまに大きくため息をついて「ああ、めんどくさ」などといいながら乱暴に野菜ジュースを飲む。
「で、何があったわけ?」
「ともちゃん!⋯⋯」
なんだかんだいってちゃんと私の話を聞いてくれる、そんなともちゃんが私は大好きだ。
「あいつさ、ひどいんだ!今日の朝⋯⋯まあ⋯⋯色々あったけど⋯⋯気づいたらいないんだよ!?で、私一人が先生に怒られて」
「んー」
曖昧な相槌をしながら話を聞いてくれるともちゃん。
私はというと、一度口火をきってしまうともう止めることができず関係ないことまで口走ってしまう。
「それにさ!家にいるときなんてね、ちょっとゴミを落とそうものならすぐにガミガミガミガミ姑みたくうるさいし!」
「んーんー」
ちゅーちゅーと野菜ジュースをすいながらそういうともちゃん。
「あと、皿洗いの時とかそれこそ姑みたく⋯⋯」
「誰が姑だって?」
その声に「うわああああっ!?」と大声をあげて椅子から転げ落ちる私。
「な、なんで、あんたがここに!?いつのまに」
そう言葉を続けようとするが、ナギが顔を抑えてそっぽを向き何かを指さしている。
「ちょっと!!真面目にきいてくれない!?」
「だから!それ!」
そういうナギの声音に仕方なく指さす方向をみる。
「なっ!?」
よりにもよってくまさんパンツが顔をのぞかせている。
恥ずかしいという感情が突き動かすままに行動をおこす私。
「あんた、アイドルに平手打ちとかある意味すごいわよね」
そういって背中をバンバン叩いて楽しそうにしてるともちゃん。
こちらとしては全然楽しくないし、笑えない。
仮にもアイドルの男の子の顔に傷をつくるなんて⋯⋯。と一人ズーンと沈んでいるとイケメン担任が教室に入ってくる。
ちなみに今は昼休みで教室には私とともちゃんを含め数人しか生徒がいない。
「あ!先生!どうしたんですか?」
そういってニコリとイケメン担任に微笑むともちゃん。
相変わらずすごい変わりよう⋯⋯
「おお、四宮。愛川もちょうどいいところに」
そういってこちらにくるイケメン担任に嫌な予感を覚えてる。
そして、私のその嫌な予感は見事に的中し⋯⋯
「ああー!もう、なんで私がこんなこと⋯⋯」
今は放課後。はやく部活にいきたいというのにお昼休みイケメン担任に頼まれた荷物運びをやらせれている。
あの担任、私のこと都合のいい家来かなにかと勘違いしてない?ああー、もう⋯⋯
重たいダンボール箱を抱えながら必死に歩く。
荷物を運んでいるのは今は使われていない東校舎で、窓から差し込む夕日も手伝ってのとこかホコリが舞っているのがよくわかる。
「ふうー!これでおわりかな⋯⋯」
そういって額の汗をぬぐうと私は部活にいくため歩みをすすめる。が、ふと目をやった先に⋯⋯
「音楽室だ⋯⋯」
今は使われていない少し古い感じのする音楽室に引き寄せられるように近づいていく。
ガラガラッ
戸があくと大きなグランドピアノが目に入り、何故だか気分が高揚してくる。
椅子にすわり、ホコリがうっすら積もった鍵盤に指をおく。
「ラララー♪ラーラーラー♪」
ピアノなんてめったにひかないのに、自然と指がメロディを奏で、私の口はどこか懐かしい歌を歌い出す。
なんだろう⋯すごく⋯⋯落ち着く⋯⋯
この歌は一体⋯⋯
「ラララ」
ガラガラッ
もっと歌おうとしたところで戸があき、ソラが入ってくる。
「な、なんであんたが!?ていうか、聞いてた?⋯⋯」
音楽室で一人で歌ってるとかかなりの変人だよね⋯⋯うわああ、恥ずかしい!
「さっきの歌⋯⋯」
「あ、あれは⋯⋯そう!次の音楽の時間までに作曲しなくちゃいけなくてさ!」
音楽の授業で作曲させるとかどこの専門学校だと言う感じだしほんとに嘘っぽい言い訳だがいわないよりかはましだろう。
「小さい頃聞いたような⋯⋯」
「え?⋯⋯」
キンコーンカンコーンキンコンカンコーン
そこで五時を告げる鐘がなってソラは慌ててかけてく。
「あ、ちょっと!」
小さい頃聞いたような⋯⋯ってどういう意味なんだろう。なんてモヤモヤしながら私も音楽室をでる。
気づいたらこんな時間だしほんとにはやく部活にいかないとな⋯⋯
にしても、なんでソラは使われていない東校舎にいたんだろ。
なんて色々思いながら夕日が差し込む廊下を歩いていると女の子の泣く声とそれを慰める声が聞こえてきた。
そっか⋯⋯。なるほどね⋯⋯。
ここ、東校舎は今は使われていないというのに加えて、夕日が綺麗に差し込み非常にロマンチックな情景になることからよく告白場所に使われるらしい。
あながち、呼び出しを受け東校舎にきたソラは女の子をふって帰ろうとしたところで私の歌が聞こえてきたのだろう。
⋯⋯偶然タイミングが重なったんだろうけど⋯⋯
偶然、怖い⋯⋯もう二度とあんな恥ずかしい真似はしないようにしようと心に誓う私だった。
「はあー!疲れたーーー!!」
遅れて部活に行った私は部長に「担任に荷物運びを頼まれて」といったのだけど、「荷物運びにこんなに時間がかかるのは体力がないからだ!」などといわれ、ひたすら走り込みをさせられた⋯⋯
理不尽すぎるよ⋯⋯
一応、人助けをしてきたというのに⋯⋯
まあ⋯⋯とにかく、はやく帰って休もう。
そう思ってバス停についからきづく。
今日からヨウの家なんだ⋯⋯。
つい、いつもの癖でナギの家にいこうとしてた。
今日からヨウの家っていうのが、なんだかすごく悲しくて私はごまかすように近くのコンビニにはいる。
もう、こうなったらやけ食いだ。と思い、かごに甘いものを突っ込んでいく。
「あとは⋯⋯」
残り一つの変わり種ポテチが目に入りそれに手を伸ばすが、別方向からも手が伸びてきてその手が私の手に重なる形になる。
「す、すいません」
「俺こそ⋯⋯」
うつむいていた顔をあげてその人をみる。
「って、風雅!?」
「姉ちゃん!」
私もナギ宅での生活に慣れてきた。
「今日から六月だね~。梅雨ってあんたがたにとってはやばい季節だよね~」
「まあね。少しでも濡れれば人魚だしね」
そういいながらナギが着替えているのは制服。久々に一緒に登校できる。
ナギが着替え終わったのを確認して
「よしっ!じゃっ、いこ!」
といって私が玄関に向かおうとすると、
「女子の身支度がそんなに短くていいのかね⋯⋯。逆に心配⋯⋯」
と独り言のようにいったナギが大きくため息をつく。
ふん。どうせ、女の子じゃないもんね。
そう思った私はナギを無視して玄関にいくと外に出た。
「雨だ⋯⋯」
しかも段々と強くなってる。
あとからでてきたナギが雨をみてあからさまに顔をしかめた。
「⋯⋯サイアク⋯⋯」
「でも⋯⋯私結構雨好きだけどな」
なんて、私が場違いなことをいうとナギはめんどくさそうに
「ハイハイ」
といって傘をとってくる。
「これ、使って」
差し出されたのは緑と白のギンガムチェックの傘。
とても可愛いらしいデザインで丈夫そうだ。それに対してナギが持っているのは置き傘タイプのビニール傘。
こいつ⋯⋯自分が濡れたらどうなんのかわかってんのかね⋯⋯。
「私、こっちね!」
そういって若干無理矢理ナギの手からビニール傘をとる。
「なっ!?ちょ」
戸惑っているナギを差し置き私は駆け出した。
「ちょっと待てよ!」
そういってかけてくるナギから逃げるように走っていたら自然と笑みがこぼれだす。
でも、そんなほわほわとした暖かい気持ちもすぐに苦いものに変わる。
偽物だからって私は家から家族から逃げ出してこうやってナギと楽しく暮らしてーー。
ほんとうにこのままでいいのな⋯⋯。
マンションの外に出て雨を目前にした私はさっきまでの暗い気持ちも消えてテンションも上がってきている。
こういう、ころころ気分が変わるところは私の長所でもあり短所でもあると思う。
「雨、きもちいーっ!」
そういって雨に打たれて両手を広げる。
ん?なにこれ。雨に打たれて一分もしないで私の体に異常が起こった。
体の奥底から沸き起こってくる「泳ぎたい」という強い思い。海の香りが鼻腔をくすぐり⋯⋯
「え⋯⋯と⋯⋯?」
制服のチェック柄のスカートから雨に濡れてキラキラしているオレンジ色の魚の尾がでている。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「って、えええっっ!?」
「な!?お前!!」
後からやってきたナギが衝撃の表情になる。
「待ってて」
そういって器用に肩で傘を支えながら私をお姫様だっこするナギ。
「うっ」
すぐそこに端正な顔がきて思わずそっぽをむく。
「重いよねー。ごめんねー。」
などと棒読みでいう私の顔はおそらく真っ赤。
「あ、あのー、きいてます?」
そういってチラリとナギのほうをみやる。
私と同じく赤くなってないかな、なんて心のどこかで思っちゃってたけど現実はそうも上手くはいかないらしく、ナギはとても険しい顔でなにかをブツブツとつぶやいている。
ですよねー。私なんかお姫様だっこしたところで「重い」以外のなにものでもないよねー。
知ってるよ⋯⋯それくらい⋯⋯
なんとか家につくとナギが私を玄関におろす。
「ごめんね。これじゃ、遅刻だよね⋯⋯」
なんていってうつむくと気づいたらナギはいない。
なっ!人が謝ってる時に!!
そう思っていると頭になにかがあたる。ポトッと落ちたそれはタオルだ。
「はやくふきなよ。」
「⋯⋯うん」
なんか、こいつ冷たい。
理由に全く心当たりがないんだけど⋯⋯。ん?私の体重が重かったから?
だとしたらひどいんだけど!体重ごとき⋯⋯いや、ごときじゃないのか?なんて思いながらタオルで濡れた箇所をふいているとスーッと力が抜けていく感じがして、生身の人間の足がスカートからのびていた。
「やった!戻ったよ!」
そういって振り向く。
「良かったね。」
苦笑いでそういうから余計に不安になってくる。
「あの、ナ」
「今日からヨウの家にいって。」
「え?」
「今日からヨウの家で暮らして、ってそういうこと」
その鋭い声と何かを貫こうとする真っ直ぐな瞳にーー。
私は、またも頷くしかなかった⋯⋯。
「なにむすっとしてんの」
「別に。ナギくんがムカつくだけ。」
そういうと、ともちゃんはあからさまに大きくため息をついて「ああ、めんどくさ」などといいながら乱暴に野菜ジュースを飲む。
「で、何があったわけ?」
「ともちゃん!⋯⋯」
なんだかんだいってちゃんと私の話を聞いてくれる、そんなともちゃんが私は大好きだ。
「あいつさ、ひどいんだ!今日の朝⋯⋯まあ⋯⋯色々あったけど⋯⋯気づいたらいないんだよ!?で、私一人が先生に怒られて」
「んー」
曖昧な相槌をしながら話を聞いてくれるともちゃん。
私はというと、一度口火をきってしまうともう止めることができず関係ないことまで口走ってしまう。
「それにさ!家にいるときなんてね、ちょっとゴミを落とそうものならすぐにガミガミガミガミ姑みたくうるさいし!」
「んーんー」
ちゅーちゅーと野菜ジュースをすいながらそういうともちゃん。
「あと、皿洗いの時とかそれこそ姑みたく⋯⋯」
「誰が姑だって?」
その声に「うわああああっ!?」と大声をあげて椅子から転げ落ちる私。
「な、なんで、あんたがここに!?いつのまに」
そう言葉を続けようとするが、ナギが顔を抑えてそっぽを向き何かを指さしている。
「ちょっと!!真面目にきいてくれない!?」
「だから!それ!」
そういうナギの声音に仕方なく指さす方向をみる。
「なっ!?」
よりにもよってくまさんパンツが顔をのぞかせている。
恥ずかしいという感情が突き動かすままに行動をおこす私。
「あんた、アイドルに平手打ちとかある意味すごいわよね」
そういって背中をバンバン叩いて楽しそうにしてるともちゃん。
こちらとしては全然楽しくないし、笑えない。
仮にもアイドルの男の子の顔に傷をつくるなんて⋯⋯。と一人ズーンと沈んでいるとイケメン担任が教室に入ってくる。
ちなみに今は昼休みで教室には私とともちゃんを含め数人しか生徒がいない。
「あ!先生!どうしたんですか?」
そういってニコリとイケメン担任に微笑むともちゃん。
相変わらずすごい変わりよう⋯⋯
「おお、四宮。愛川もちょうどいいところに」
そういってこちらにくるイケメン担任に嫌な予感を覚えてる。
そして、私のその嫌な予感は見事に的中し⋯⋯
「ああー!もう、なんで私がこんなこと⋯⋯」
今は放課後。はやく部活にいきたいというのにお昼休みイケメン担任に頼まれた荷物運びをやらせれている。
あの担任、私のこと都合のいい家来かなにかと勘違いしてない?ああー、もう⋯⋯
重たいダンボール箱を抱えながら必死に歩く。
荷物を運んでいるのは今は使われていない東校舎で、窓から差し込む夕日も手伝ってのとこかホコリが舞っているのがよくわかる。
「ふうー!これでおわりかな⋯⋯」
そういって額の汗をぬぐうと私は部活にいくため歩みをすすめる。が、ふと目をやった先に⋯⋯
「音楽室だ⋯⋯」
今は使われていない少し古い感じのする音楽室に引き寄せられるように近づいていく。
ガラガラッ
戸があくと大きなグランドピアノが目に入り、何故だか気分が高揚してくる。
椅子にすわり、ホコリがうっすら積もった鍵盤に指をおく。
「ラララー♪ラーラーラー♪」
ピアノなんてめったにひかないのに、自然と指がメロディを奏で、私の口はどこか懐かしい歌を歌い出す。
なんだろう⋯すごく⋯⋯落ち着く⋯⋯
この歌は一体⋯⋯
「ラララ」
ガラガラッ
もっと歌おうとしたところで戸があき、ソラが入ってくる。
「な、なんであんたが!?ていうか、聞いてた?⋯⋯」
音楽室で一人で歌ってるとかかなりの変人だよね⋯⋯うわああ、恥ずかしい!
「さっきの歌⋯⋯」
「あ、あれは⋯⋯そう!次の音楽の時間までに作曲しなくちゃいけなくてさ!」
音楽の授業で作曲させるとかどこの専門学校だと言う感じだしほんとに嘘っぽい言い訳だがいわないよりかはましだろう。
「小さい頃聞いたような⋯⋯」
「え?⋯⋯」
キンコーンカンコーンキンコンカンコーン
そこで五時を告げる鐘がなってソラは慌ててかけてく。
「あ、ちょっと!」
小さい頃聞いたような⋯⋯ってどういう意味なんだろう。なんてモヤモヤしながら私も音楽室をでる。
気づいたらこんな時間だしほんとにはやく部活にいかないとな⋯⋯
にしても、なんでソラは使われていない東校舎にいたんだろ。
なんて色々思いながら夕日が差し込む廊下を歩いていると女の子の泣く声とそれを慰める声が聞こえてきた。
そっか⋯⋯。なるほどね⋯⋯。
ここ、東校舎は今は使われていないというのに加えて、夕日が綺麗に差し込み非常にロマンチックな情景になることからよく告白場所に使われるらしい。
あながち、呼び出しを受け東校舎にきたソラは女の子をふって帰ろうとしたところで私の歌が聞こえてきたのだろう。
⋯⋯偶然タイミングが重なったんだろうけど⋯⋯
偶然、怖い⋯⋯もう二度とあんな恥ずかしい真似はしないようにしようと心に誓う私だった。
「はあー!疲れたーーー!!」
遅れて部活に行った私は部長に「担任に荷物運びを頼まれて」といったのだけど、「荷物運びにこんなに時間がかかるのは体力がないからだ!」などといわれ、ひたすら走り込みをさせられた⋯⋯
理不尽すぎるよ⋯⋯
一応、人助けをしてきたというのに⋯⋯
まあ⋯⋯とにかく、はやく帰って休もう。
そう思ってバス停についからきづく。
今日からヨウの家なんだ⋯⋯。
つい、いつもの癖でナギの家にいこうとしてた。
今日からヨウの家っていうのが、なんだかすごく悲しくて私はごまかすように近くのコンビニにはいる。
もう、こうなったらやけ食いだ。と思い、かごに甘いものを突っ込んでいく。
「あとは⋯⋯」
残り一つの変わり種ポテチが目に入りそれに手を伸ばすが、別方向からも手が伸びてきてその手が私の手に重なる形になる。
「す、すいません」
「俺こそ⋯⋯」
うつむいていた顔をあげてその人をみる。
「って、風雅!?」
「姉ちゃん!」