初恋の人は人魚×アイドル!?
〜ナギ〜
「なんか、最近の莉音ちゃん冷たくない?」
「は?そんなことないでしょ。」
 そういう莉音だけど、ソラの言う通りだと思う。
 やっぱり、人魚としての彼女が⋯⋯
「やっぱり普通じゃないよ!ね、ナギ!」
「そうだね⋯⋯まあ、いつも普通じゃないけど」
「うるっさいなあ、もう。あっちいってよ」
とイラついている莉音のところにお呼びがかかる。
「愛川~、先輩来てっぞ〜」
「はーい」
 そういってかけていく莉音の足取りは軽い。
「最近、あの先輩とばっかり話してるよね。もう、つまんないよ~。明らかに態度違うし⋯⋯」
 そういってむくれるソラ。
「あのさ、ソラ」
「なに?」
「⋯⋯今日、『 笑ってええとも!』の後に話すね」
「?そう⋯⋯」




楽屋にて
「!?そうか。莉音はやはり女王の子だったのか⋯⋯」
 そういって考え込むネク。
「うん。だから、人魚とは恋愛できたい。むしろ、人魚に対しては嫌悪感すら抱くかもね。まあ、人魚としての自分に慣れればそんなことはなくなるんだろうけど、今は⋯⋯」
「そっかあ。だから、莉音あんなに冷たかったのかあ⋯⋯」
 ソラが悲しそうに下を向く。
「確か、セレナーデ一族は人間としか恋愛できないんだよな」
「馬鹿なユータンでもそれぐらいは知ってるんだねー」
「うるせえ、ヨウ」
「あ!そっか!!」
 そこで、いきなり立ち上がるソラ。
「莉音は人間としか恋愛できないからあの先輩と!!」
「なにそれ~。詳しく聞かせてよ、ソラ」
 へらへらしながらそういうヨウだが目が笑っていない。
「実は⋯⋯」




「なるほどね~」
「あんな女、どうでもいいが⋯⋯。なんか、それはそれで腹立つな⋯⋯」
「ユータン、むっつりですか」
「むっつりじゃねえよ!!」
「まあ、とりあえずこの話は終わりで」
 そういって話を終わらせようとする。ちゃんと事情を話しおかなきゃ、とは思っていたものの皆がこんなに熱くなるとは思っていなかった。
 出来ることならば、僕も彼らと同じように怒って、莉音がどうのといいたい。
 けど、僕にそれはできないから。
 これ以上、この会話を聞いていたらおかしくなりそうだった。
「よしっ!莉音をメロメロバッキュンして先輩から奪っちゃうぞ作戦やろう!」
 唐突に立ち上がり名案だとばかりにそういいきるソラ。
「なんだそれ、だっせ」
などといってるユータだが、作戦名が気に入っていないだけで、作戦自体は気に入ってるっぽい。
「まあ、作戦名はともかく、僕も本気だしちゃおっかな」
といって舌を出すヨウ。
 普段のおちゃらけた雰囲気を感じさせない強い瞳をしていて、本気なのが伝わってくる。
 下を向いて考え込んでいるネクも乗り気じゃないわけではないらしい。
 ということは⋯⋯
「僕もやるよ、そのなんとか作戦。」
 小さい頃から決まってそうだった。
 自我が強い幼なじみたちに合わせるのが僕の役目。いや、自分からあわせてたっていうのかな⋯⋯。
 まあ、今回のこの作戦はあんまり積極的にはできないけど、みんなが暴走しないようにしよう⋯⋯。
「おお!ナギもやるか!頑張ろうぜ!」
などといってくるユータ。
 さっきまでとはうって違ったやる気満々のユータを若干鬱陶しく思いながら、僕はため息をついた⋯⋯。




「莉音、おっはよ~!」
 やっていた予習用ノートから目を離しこちらをチラリと見ると
「おはよ」
とさらっといって予習の続きをする莉音。
「莉音⋯⋯僕たちと話すより勉強のほうが大事だっていうんだ!」
「当たり前でしょ」
と冷たくいう莉音にソラは
「もう、莉音なんて知らない!」
といってかけていく。
 ⋯⋯これが、ソラの作戦なの?
 よくわかんないな⋯⋯などと思いながら僕は莉音の前の子の席に座る。
「それ、今日の一時間目まで?」
「ううん。二時間目まで。」
 そういってカツカツと教科書の英文をうつす莉音。
 窓からはいってくる日の光を浴びて薄茶になった髪の毛。
 教科書の文字をおっている目も少し細くなる。
 その莉音をみつめているたったの数分がとても長く感じられて。それと同時に幸せな気持ちになってくる。
 ずっと、こういう時間が続けばいいのにーー。




 そんな二人をみつめるひとつの視線。
 ムキィーっ!!なんで、あんないい雰囲気になってるの!?
 僕が一晩考えた「ツンデレ大作戦」は失敗だっていうんだ⋯⋯
 でも、こんなとこでめげてちゃダメだよね!もっといい作戦を考えよう!!




~♪~♪
 予習もあともう少しでおわり、というところでスマホの着信音がなる。
「うわあぁっ!!」
「え?⋯⋯」
 見ると前の子の席にずっと座っていた思われるナギがイスから転げ落ちている。アイドルらしからぬ醜態⋯⋯
「ちょっと、大丈夫?」
「だ、大丈夫。な、なんか、ごめんね」
などともごもごいいながらいうナギだけど、英語が二時間目にあるということをいってからこれまでずっとそこにいたのだろうか。
 英語の鬼畜教師に怒られるのが嫌で死に物狂いで予習をやっていたせいか気づかなかった。
「メールじゃない?見ないの?」
というナギはきちんと座り直しているが顔が若干赤くなっている。
「あ、そうだね」
 これ以上、触れるとかわいそうだし。
 スマホのロックを解除してメールの受信画面をひらく。
 新着メールの差出人の文字をみてかたまる。ヨウ?⋯⋯
「あいつっ!!」
 思わず立ち上がり叫んでしまう私。
「ど、どうしたの?」
「なんでもない⋯⋯気にしないで⋯⋯」
 そういって座るとそのメールをひらく。
〈これからヨロ(`・ω・´)スク!〉
 なんか、腹立つな⋯⋯
 っていうか、
「いつ、メアドを⋯⋯?⋯⋯」
「さっきからなに?」
といってスマホをのぞき込んでこようとするナギを手で制する。
「ちょっと待って。あんたにメアド教えたっけ」
「へっ?⋯⋯教えてないけど?」
 ⋯⋯となると⋯⋯
 ⋯⋯ともちゃん、ひどいわ⋯⋯
 いくら、イケメン好きだからって⋯⋯
そんなともちゃんは本日はお休み(風邪ということになっているが、本当はヤンキーの集会かなにかだと思う)で問い詰めることもできない。けど、彼女以外に教える人が思い浮かばないのだ。
 もわもわした気持ちでいるとまた着信音がなる。
 さっきのから数分しかたってないけど⋯⋯
〈わあ~い、そろそろ気づいた~??ともちゃん情報だよ~~~v(´・ω・`)v
これからは毎日20通目標にメール送るからね☆〜(ゝ。∂)あ・い・し・て・る・よ♡♡〉
 私はスマホが異様な音をだすほどに手に強く力を込めた。
 あいしてるってなんだ。わあ~いも意味わかんないし。っていうか、毎日こんなメールを20通とかありえないでしょ。
着信拒否してやろうか、と思ったが、それだと自分が負けたような気がして嫌だ。こんなところで負けず嫌いを発動させなくてもいいのは理解しているものの、やっぱり腹が立つ。
 全て無視してやろう。うん、それがいい。
「ねえ⋯⋯莉音⋯⋯気づいてないと思うけどさっきから表情が七変化してるよ?⋯⋯」
 若干ひいてるナギの笑みに苦笑いで
「まあ⋯⋯ね⋯⋯ははは」
という。
「大丈夫なの?」
「まあ、大丈夫、大丈夫」
 そういった矢先になる着メロ。
〈莉音ちゃん、怒ってる~??(〃艸〃)ムフッ怒ってたらさ、今度ごはんおごるから許して~♡♡(´>ω<`)〉
「⋯⋯」
 私がスマホを故障させるほどに握り締めたのは致し方のないことだと思う。







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