初恋の人は人魚×アイドル!?
「もう昼なんだ。はやいわね⋯⋯」
 そういって前方の海をみつめる。
 胸のあたりが空っぽな感じがして違和感を感じるが、最初よりかはましになってきている。ナギとの花火大会の頃にはもっとましになっているといいなあ⋯⋯。
 なんて事を考えながら、あることに気づく。
 私がナギ宅に行ったのはナギに会って今日の花火大会について聞くためだ。
 だというのに、ナギ宅に行ってでてきたのはモモちゃん。しまいには倒れて、胸のあたりが空っぽになってしまった

 そういえばモモちゃん、ナギと幼なじみっていってたな⋯⋯。本当なんだろうか。
 幼なじみ⋯⋯小さい頃から一緒にいた人。
 モモちゃんがナギの幼なじみ。そのことを考えると胸のあたりがちくりといたくなる。
 けど、今は花火大会のことを考えなくちゃ。そう思い直してソラをみやる私。
「ねえソラ、ナギのメアド知ってる?知ってるなら教えてほし」
「やーだーよー」
 私の声をさえぎりそういうと、ニコッと微笑み、ついでに可愛らしく舌をだすソラ。
 世間一般の人はこんなソラの様子を「可愛い」というのだろう。が、今の私からすればムカつくだけだ。
「は?なんで」
「まあまあ莉音、怒らないでよ。交換条件があるんだ」
「交換条件?⋯⋯」
「僕と莉音でメアド交換しよ。そしたら、ナギのメアドを教えてあげるよ」
 ニコニコ顔で答えを待つソラに即答する。
「すっごくやだ」
「え〜、なんで〜?」
 駄々をこねるような口調でそういうソラに私はあきれた口調で
「だって、SUNNY'Sは変態だから」
という。
「莉音、それ口癖みたくなってるね⋯⋯」
 どこか関心したようにそういったソラ。
 先ほどまでニコニコしていたのに唐突に真剣な表情になる。普段ニコニコしてる分、緊張感が走る。
「莉音、僕は莉音のメアド知っても変なこと送ったりしないし迷惑かけたりしない。必要最低限のことしか送らないから」
 そういうソラの真剣な強い意志を宿した瞳が私をじっと見つめる。
 ⋯⋯逃れることはできなさそうだ。
 天然、強し。
「わかった」
「え、ほんと!?やったー!」
と普段通りの天然ニコニコソラに戻った様子をぼんやり見ながらメアドくらいどうってことないよね⋯⋯多分⋯⋯などと思っていた。




 プルルル
「⋯⋯知らないメアドだ⋯⋯」
「え?誰から?」
 そういってグイッと体を前にのりだし僕の携帯をのぞき込むモモ。
 僕がおごってあげたアイスを半分溶けさせている。金の無駄遣いだ。
「ちょっとモモ、後ろにさがってよ。見えないじゃん」
「チェッ」
 むくれてそういうと、後ろにさがり、またアイスをペロペロなめはじめるももくり。
 はやくたべればいいのに⋯⋯。なんて思いつつメールを見てみる。
 文面を見るにイタズラメールではなさそうだ。って⋯⋯
「!!」
 声を上げそうになって、自分で自分の口をふさぐ。
「?どうかしたの?」
「う、ううん。なんでもない。」
 興奮を押し殺してそういうのがやっとだ。
 件名のところには〈莉音です〉の文字。
 莉音を名乗った誰かとか疑う気は全然ない。
 だって、こんな無愛想な文面莉音にしかかけないと思うから。
 ⋯⋯なんていったら莉音に失礼だけど、ほんとにそんな感じだ。
〈ナギ、今日花火大会いける?っていうか、行けるよね?あんたから誘ってきたんだし〉
 それを見てたら自然と笑いがこみあげてくきて止まらなくなる。なんていうか、莉音らしくて⋯⋯すごく、すごく、可愛い。
「どうかしたの?」
 訝しげな表情のモモに
「ううん。なんでもないよ」
といって微笑んでみせる。
〈もちろん、行けるよ´ω`*〉
 ピロロン
〈じゃあ、何時にどこ?〉
〈六時に新緑公園で〉
〈了解〉
「ふふっ」
「ちょっ、なに?ほんとにさっきからどうしたの」
「なんでもないよ」
「もう!さっきからそればっかり」
 そういうモモは本格的にすねて、不機嫌になってきている。
 これ以上ひどくなると本当にめんどくさいな、と思いつつメールの文面をみてにやけてしまう自分がいた。
 ヨウが莉音とメールしているのをみて羨ましく思ったことは数知れない。
 けど、一体なにが楽しいのか⋯⋯などと思っていた。
 でも、実際にやってみてこの身で実感する。
 好きな子とのメールはドキドキしてワクワクして⋯⋯とてもたまらない気持ちになる。






「ねえ、莉音は浴衣きないの?」
「着ない。着たくない。」
「えぇ〜。僕は浴衣姿の莉音と花火をみたいよ〜」
「いつ、誰が、あんたと花火みるっていったのよ⋯⋯」
 この天然、手に負えない⋯⋯。
 携帯を確認すると今は四時。約束の時間まであと二時間。それまでにこの天然をどうにかしないとね。
 それに、胸の空っぽな感じは違和感が半端なくて気持ち悪くなってきている。はやくよくならないと花火大会の時にナギに迷惑をかけてしまう。
「どうしたの?莉音。具合悪そうだけど」
「別に大丈夫」
「ぶー。なんか莉音、冷たい」
 ムスーッとするソラに「そんなことないけど」と言おうとしてあることに気づく。
 こうやって話していると忘れてしまいがちだが、こいつはイケメンだ。
 そして私の親友はイケメンハンター。
 こういう時こそ⋯⋯!







「モモ、だから花火は⋯⋯」
「ナギと一緒にいくの〜」
「はあ〜⋯⋯」
 右腕にしっかり絡みついて離れないモモ。こうなったモモは手に負えない。どうしたものか⋯⋯。そう思った矢先になりだす携帯。
「はい」
「もしもし。木本です。」
 木本さんは僕達SUNNY'Sのマネージャーのだ。
「ああ、木本さん。どうかしたんですか?」
「六時半から生放送の番組が入ってます。」
「え⋯⋯」
「六時にナギさんのお家に迎えにいくので。では」
 ツーツー
 切られた携帯をボーッとみつめる。やがて携帯をもっていた手は力がはいらずだらんとする。
「えっ?ちょっ、ナギ?」
 急に予定がはいるのは別段おかしいことじゃない。むしろ、自分でそうしているようなものだ。
 あの娘に会いたくて、あけられる時間は全部あけるようにした。スケジュール確認の時間もカットしてもらってる。だから、仕方ない。
 でも⋯⋯こんな時に⋯⋯。





 ソラがともちゃんに連行されて数分がたち⋯⋯。
 プルルルル
 ナギからのメールだ。なぜだか心がはずむ。胸は空っぽになっているのにナギからのメールには胸があたたまる。
 けど⋯⋯
「え⋯⋯」
 携帯画面の文面をみてついかたまる。心が一気に冷えていく。
〈ごめん。いけなくなった。〉
 その簡素な文字がいたく目に付く。
 そよ風が私の頬をなでる。
「一緒に⋯⋯行きたかったな⋯⋯」
 そんなつぶやきは誰の耳にも届かずそよ風に溶けていく。

 私の頬を流れ落ちたものはきっと、振り始めた雨の一部だろう⋯⋯。
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