初恋の人は人魚×アイドル!?
 メンバー全員が凄まじい歌唱力を誇り、老若男女に人気を博す国民的アイドルグループ、SUNNY'S
 リーダーであるユータは力強い歌声とワイルドな言動からオレ様キャラとして人気を博している。
 そのユータのおさえ役なのが、魅惑の低音ボイスであるネク。クール系として機能していて家事全般をこなすことから主夫ともいわれる。
 チャラ系として女性に人気を博すヨウ。チャラチャラしているようで案外しっかりしていてユータのフォロー役でもある。ネク、ユータとは幼馴染。甘い美声が売り。
 爽やか系天然アイドル、ソラ。爽やかスマイルから放たれる天然発言には定評あり。寝る事、食べる事が大好き。透き通るような歌声。ナギとは幼なじみ。
 グループの可愛い担当ナギ。女の子顔負けな可愛い仕草には男性ですら心を奪われる。また、気配りがよくできる。優しい、心に染みるような歌声。
「ふわあ〜……」
 雑誌の記事を読んで、あくびと共に大きくため息をつく。
 すごく近くに感じていたけど、やっぱり有名人だなあ……。
 五人揃ってニコリと笑っている様子はアイドルそのもの。その中に、普通に至近距離で話していた人がいるんだもんなあ……。
「姉ちゃん、そこで寝んなよ」
 雑誌を顔の上にかぶせて目をつぶった途端に話しかけてくる風雅にイラッとする。
「うるさいなあ……」
 大きいため息と共にそういって立ち上がる。
「これあげる」
 アイドル雑誌を風雅に押し付けて、ずっと同じ体勢だったせいで痛む首をまわす。
「はっ?これ、お前が買ったんだろ。なんで俺にわたすんだよ?」
「いらないから」
 そういってリビングを出ようとする。だけど……
「姉ちゃん、ナギのこと好きなんだろ?」
「は、はあっ!?」
「好きな人がほんとは遠い所にいるって認めたくないだけじゃねえの?」
 図星だった。
 私はあいつのことなど気にもしていないはずだったけど、アイドルとして輝いている遠い所にいるナギを見たくなかった。
「そうかもね。だとしても、好きとかはまずないから。大体、最近の若者は少し仲いいだけでそっちの意味で捉えるから嫌だよね」
 ムスッとしながらそんなことをいうと
「姉ちゃんだって充分若者だけど。それに、その言い方だと自分達は少しは仲いいとしか……」
「ああ、もう!!うるさい、風雅!!そんな訳ないじゃん!!」
 中三のくせに!モテないくせに!心の中で悪口をいいながら、リビングをでた……。




〜翌日〜
「はあ……」
 ここのところ、ため息ばかりついている。風雅があんなこというから……。
「おはよ。しけた面してどうしたの?」
 爽やかな海の香りがしてふと顔をあげるとナギがいる。
 白いジャケットにジーンズ。制服じゃないところをみるとこれから仕事なんだろうな。
 いつも朝一に学校にくる私だけど、最近はずっとナギに負けている。
「……おはよ。普段からこういう顔だから、気にしないで……」
 ナギと目をあわさずにそういってスタスタと歩いていく。今は嫌味をいいかえす気もおきない。
 白い廊下の床が顔を出し始めた太陽の光を浴びてまぶしい。
「……僕は…………」
「なんかいった?」
 つぶやくような声に振り返る。
なぜだか、ナギとのたった二mほどの距離がひどく遠く感じられる。
「あのさ、いいたいことあるならちゃんといってほしい」
 いつもナギは肝心なところをいってくれない。それだと、溜め込みすぎて辛くなるだけなのに。
「…………あした、僕の友達が転校してくる」
「ふーん、そうなんだ。ってそうじゃなーい!!」
 気が滅入っていたのなんて忘れて大声で突っ込んでしまう。
「私は心の中にため込んでるもの、みたいな意味で」
「じゃ」
 私に背中を向けさっさといってしまうナギ。
 やっぱり、アイツ、腹立つ!!
 なんなのさ!気を使っていってやったのに!
 まあ、うまくはぐらかされた私も私なんだけど……


「あんた、なんでそんな不機嫌なの?」
「ともちゃ〜ん!!聞いてよ〜!実は」
「不機嫌なのもウザいけど語ってくるのもウザい。あっ、先生〜」
 立ち上がりかけていくともちゃん。
「ひ、ひどい……」
 優しいけれど非常。そんなともちゃんのスタンスを理解していたはずなのに……
「ううっ……ともちゃんのおバカ……」
 机に突っ伏して腕と机のすき間から窓の外をぼんやりと見つめる。
 どんよりとした黒い雲。
 これは一雨きそうだな……。そんなことを思っているとともちゃんの生き生きとした声が耳に入ってくる。
 ともちゃん、私とイケメン担任への対応差ひどすぎでしょ……。

 私にもその神対応してよー!と内心涙目になる私なのだった……。



「うわっ」
 すぐそばを走り抜けた車のせいで、白い靴下にしみがつく。
「ああー、もう最悪ーっ!!だから、雨なんて嫌いなんだよ……」
などとつぶやきながら、テクテク歩く。
 海沿いの道はカーブ続きでこんな視界の悪い日に通るのは非常に危ないんだけど……
「なんとしても早急に家に帰らなくては……」
 先程弟から送られてきたメールの内容を思い出してギリギリと奥歯をかむ。
<録画してあったアイドル番組だけどさ、俺の生命の源のアニメとかぶってたから、録画解除しといた。ごめんな>
 おのれ、風雅。許すまじ。というわけで、家まで一番近い道を通って帰ることにしたのだ。危ないとかそういうことは今の私には関係ない。
「うう〜〜風雅めえ〜」
 風に押される傘を必死に支えながら弟の名を呼ぶ私は相当痛いやつだろう……。
「君!きてきて!!」
 はあー……スカートビショビショ。明日までに乾くかな。
「ちょっとー!そーこーの、君ー!!」
 波、高いな……。

 あの日を思い出して、ギュッと心臓を掴まれたみたくなる。
 迫ってくる大きな大きな波にのまれる感覚はそう簡単に忘れられるものではない。
 苦しくて息を吸おうとしても、鼻からも口からも塩辛い水ばかりがはいってくる、あの感覚。思い出すだけで気分が悪くなってくる。

「ねー!そこの君ってば!!」
 ……呼ばれてるやつはやく気づけよ……。そう思って傘をあげ、声がした方を見る。
「あー!やーっと気づいた〜。はやく、こっち来て、車乗って!」
「……」
 私はあんぐりと口をあけてその人をみる。黒い車の中にいるその人は見間違いでなければSUNNY 'Sの爽やか天然ボーイ、ソラ君。



















< 4 / 61 >

この作品をシェア

pagetop