初恋の人は人魚×アイドル!?
「みんな、盛り上がってこうぜ!」
ライブ中だけはやけにかっこよく見えるユータ。
「ほら、あまり叫んでばかりいると声が枯れてしまうぞ」
舞台上でも相変わらず保護者なネク。
「そうそう。ユータン可愛い子多いからってがっつきすぎだよ」
と言ったついでにウインクまで飛ばし会場を黄色い歓声で満たすヨウ。
「みんな〜、今日は楽しんでいってね〜」
そういった途端にすっ転ぶソラ。
そんなソラを助けあげると
「じゃあ、みなさん、いきますよ」
と優しく微笑むナギ。

そうして流れ出す曲。
会場全体を包む熱気。歓声。
そんな中で一際輝くSUNNY'Sの歌声。
なにもかもが熱くて、みんな同じで、一つになって、すごく楽しくてーー。



「ボーッとしてるみたいだけど、大丈夫ですか?」
そうだずねてくるモモちゃんに
「⋯⋯あっ!うん。大丈夫、大丈夫」
なんていって微笑んでみせるものの、頭の中はまだSUNNY'Sのライブのことで一杯だ。
五時間にも及ぶ長いライブだったけれど、全然そんな気がしなくて、それぐらい楽しいライブだった。
「それにしても、すごいねSUNNY'S。始まりが『ポップ・ザ・フューチャー』のピアノだったじゃない!?もうあそこから鳥肌だよね」
「分かります。しかもその後すぐにナギのアカペラですからね。あれは鳥肌たたない方がおかしいですよ」
ライブ会場を出てから、駅の方に向かって歩きつつライブの話に花を咲かせる。
「だよね。その後、ソラ、ヨウ、ユータ、ネクって一人ずつアカペラで歌って、最終的に五人であわさった時のあのハーモニー!」
「あれはやばいですよね⋯⋯」
「ほんとに!モモちゃんはあんなすごい子達と幼なじみなんだもんね」
そういって感心したようにため息をつく私。少しおばさん臭くなった気がする。
「そうですか?⋯⋯。それに幼なじみなのはソラとナギだけで、ネク、ユータ、ヨウはただの知人でしたよ」
ばっさりとそう言い切るモモちゃん。
「そうなんだ⋯⋯。あっ!ねえねえ、みんなの小さい頃ってどんな感じだったの?」
ふと気になったことを聞いてみる。
やっぱりこういうのって幼なじみしか知らないことも多いしね。
ワクワクした気分で思案している様子のモモちゃんが口を開くのを待つ。
「そうですね⋯⋯。みんな、今と変わりませんよ」
その言葉に内心気落ちする。
そういうことじゃなくて、なにかエピソードみたいなのを聞きたいんだけどな。
でもそんなこと言ってもめんどくさがられそうだし、やめとこうか。
そう思った矢先、モモちゃんが思いたったように口を開く。
「ヨウは、今と全然違いました⋯⋯。初めて会った時女の子と見間違えるくらい」
「え、なにそれ。どゆこと?聞かせて、聞かせて!」
もう気分もハイなので、テンションもおかしなことになっている。
モモちゃんは呆れた冷たい目線をこちらによこしながら
「髪の毛が長くて、右目が隠れてました」
という。
髪の毛が長くて右目が隠れてる?⋯⋯
なにそれ。中二病みたい。
「あと、引っ込み思案で、内向的で、女の子恐怖症でしたね。まあ、今と正反対な感じです」
「女の子⋯⋯恐怖症?⋯⋯。あいつが!?」
「はい。なんでも、女の子に暴力を振るわれたとかなんとかでそれからダメだったみたいですよ」
「でも今は大丈夫なんだね」
「はい。私もこっちに来て初めて会ったとき驚きました。あいつ、好きな人が出来たんじゃないですかね。それでイメチェンしたように思います」
「そう⋯⋯なんだ⋯⋯」
「はい。恋程強い力を持ったものはないですから」
なにその恋愛脳、とと内心突っ込みつつ確かにな、と納得している自分がいる。
「そうだよね」
「はい。じゃあ、私はこれで」
駅前につくとスタスタと歩いていくモモちゃん。
「えっ。ちょっ、モモちゃん!」
慌ててモモちゃんを追いかけて駆け出す。
「今海に帰るの?」
「⋯⋯」
何も答えずに、こちらを振り返ることなく歩き続けるモモちゃん。
「もう少し待ってくれない?モモちゃんが海に帰ったらあいつら悲しむし、送別会みたいのを」
「大丈夫です。そういうのいりません。」
そういいながらも歩みを止めないモモちゃん。
その声音は強がってるけどわかりやすいくらいの涙声だった。

そうだよね。
寂しいよね。送別会、やれるものならやりたいけどそういう訳にもいかないんだよね。

モモちゃんは一度決めたことをやり通す子だから⋯⋯。

「なに、私のこと理解した、みたいな顔してるんですか」
モモちゃんを追いかけて歩いていると、もう駅の中の切符売り場に来ていて、振り返ったモモちゃんが険しい表情でこちらを睨んでくる。
「だって⋯⋯」
「私、海の近くまで行く電車に乗って、そのまま海に帰ります」
私の声を遮ってそういうモモちゃん。
その瞳にはうっすらと涙がたまってる。
「また会えるよ」
「⋯⋯あなたなんかとはもう二度と会いたくないですけどね」
「ええっ!?それはなくない?今日一日でかなり絆を深められたと思ったんだけど⋯⋯」
「⋯⋯そうですね。まあ、他人から知人くらいには変わったんじゃないですか。」
そういうモモちゃんには感心してため息がでてしまう。
本当にぶれないなあ。こういうのをツンデレっていうのかね。ナギの前だとデレデレだし。

切符を買うともう一度振り返るモモちゃん。
「じゃあ⋯⋯」
「うん。じゃあ」
にこりと微笑んで、「またね」と続けようとすると、意外にも先を越された。
「またね⋯⋯」
恥ずかしそうにしながらもはっきりとそういってくれるモモちゃん。
モモちゃんのデレモードが見れたことが嬉しくて私の笑顔は自分でもわかるくらいのニヤケ顔に変わってしまう。
「またね」
モモちゃんは目線で「きもい」と訴えるとスタスタとホームの方へ歩いていった⋯⋯。



駅をでてバス停に向かい一人歩いていると、目の前から怪しげな集団がやってくる。
五人全員がマスクを着用していて、メガネやサングラスをかけたり帽子をかぶったりしている。
もしかして、強盗犯とか?⋯⋯
どうしよう。凶器とか持ってたら⋯⋯。
でも、まず強盗犯なんて証拠ないし⋯⋯。なんて思っていると、五人のうちの一人が明らかに女物のバッグを持っているのが目に入る。
私の予想は外れていなかったらしい。
それにしても、女一人に男五人でたかったんだろうか。
⋯⋯最悪。下劣極まりない。
先ほどまでの恐怖心も一気に消え去り、怒りが体を満たしていく。
私は堂々と五人並んで歩いてくる彼らの真ん前、ちょうど真ん中のバッグを持ってる男のいる延長線を歩いていく。
彼らとの距離が約三メートルほどになると私は駆け出しバッグを持っている男の腕めがけて蹴りを入れた。
「っつ!⋯⋯」
痛みに悶えバッグを落とす男。
ヤンキーの親玉を親友にもっているのだ。女だからと甘く見ないで欲しい。
私は男が落としたバッグを拾いあげると、五人を睨みつける。
「このバッグの持ち主はどこにいるんですか」
「⋯⋯⋯⋯」
「答えてください」
そういうとサッと携帯を取り出す。
「答えてくれないなら通報して警察に突き出します。けど、ちゃんと女の人の場所を教えてその女の人に謝罪するのなら今回は見逃します」
はっきりとそう告げる。
「⋯⋯⋯⋯」
またも続く沈黙にイライラしながらもう一度口を開こうとする。と⋯⋯
「ぷっ。あはははっ。莉音ちゃん面白すぎ!」
「⋯⋯は?⋯⋯」
今の声⋯⋯聞き間違えでなければ⋯⋯
「ヨウ?」
サングラスをかけている男が腹を抱えて笑いながら
「そうだよ」
と答える。
「え⋯⋯。じゃあ、これは?強盗犯じゃないの!?」
「ご、強盗犯とか⋯⋯あは、あははは」
腹を抱えてひたすら笑い続けるヨウの隣にいるマスクをした男が
「それはモモのバッグだ」
と落ち着いた声音でいう。その親にさとされているような気分になる声音に「ああ、ネクか⋯⋯」と察する。
「僕の家に置いてってたからさ⋯⋯。ほら、莉音がメールくれたじゃない。それで急いで⋯⋯」
そういうのは私が蹴りをお見舞いした男。
「⋯⋯ナギ⋯⋯さん?⋯⋯」
「?なに?⋯⋯」
「えっと⋯⋯。すいませんでした!」
道のど真ん中ということも忘れて土下座する私。
「いいよ、いいよ。確かに僕ら急いでてかなり怪しい格好になっちゃったからね」
なんていって苦笑するナギ。心広すぎかよ。
「ええー、ちょっと、莉音ちゃーん」
笑いも止まったらしいヨウがムスッとして声をかけてくる。
「メール送ったの僕だけじゃなかったの?ひどいよ〜。」
いい歳して泣きマネをしだすヨウを冷めた目で一瞥する。
「僕もメールもらったよ〜」
なんてソラがふわふわ発言しだす。
「とりあえず、端によろうぜ」
そういうのはユータ。
趣味の悪い帽子だな⋯⋯。
「あ?なんか文句あんのかよ」
「別にー」
「なんだよ、それ。腹立つ物言いだな」
「は?」
「おい、二人とも」
その怒りを帯びたネクの声に黙り込む私とユータ。
「端に寄るんだろ」
「「はーい」」




「で、SUNNY'Sのみなさんは私のメールを見て駆けつけようとしてくれた⋯⋯ってことであってる?」
私がSUNNY'Sに向けて送ったメール。それは「モモが海に帰るらしいからお別れ会やりたいの。可能ならライブ終わりにでも」というもの。
モモちゃんは決めたらすぐ行動しそうなタイプだったから早めにやったほうがいいだろう、と考えた私はライブが終わってすぐにそんなメールを送った。
それを見てこの人達は駆けつけてくれたんだろう。
「うん。あってるよ。急いで来たんだけど⋯⋯間に合わなかったみたいだね」
どこか悲しそうにそういうナギ。
そんな姿に胸が痛む。
「でも、また、会えるから」
そういうとモモのバッグをナギに押し付ける。
「また会ったときに渡しなよ」
「⋯⋯うん」
そういって優しく微笑むナギ。
「モモちゃんさ、みんなの顔見たら名残惜しくなっちゃうから、会わずに言ったんだよ」
私よりずっと長く彼女と一緒にいる彼らにこんなこという必要ないのかもしれないけど。
伝えておきたかった。
「あいつもそんなふうに思ったりするんだな」
感慨深そうにそういうユータ。嫌味というより純粋にそう思ってるらしい。
まあ、モモちゃんは普段からツンツンしてるから、そう思っても仕方ないのかもしれない。
「モモはああ見えて寂しがり屋だからね〜」
なんてソラが笑いかける。
その時⋯⋯
「お姉ちゃんはっ!?」
見知った人の声が聞こえてくる。
振り返れば、予想した人物がいる。
「キールくん⋯⋯」
< 46 / 61 >

この作品をシェア

pagetop