溺愛オフィス
「まずは、担当のスタイリストさんが来る前に、プレスルームの掃除だよね」
確認するように呟きながらプレスルームの扉を開ける。
すると、誰もいないと思っていた部屋の中に先客の姿があった。
ハンガーラックにかかる新作のトップスへ伸ばされる逞しい腕。
爽やかなライトブルーに染まった細身デザインのシャツは、筋肉の締まった彼のウエストラインを魅力的に見せていて。
それらに一瞬見惚れていたら、私の気配に気付いたのか、彼が振り返った。
端正な顔にある切れ長い瞳が、私の姿を認める。
本社の女性だけでなく、販売員の女性達も憧れているという、この彼の名は桜庭 一陽(さくらば かずひ)。
リアライズの社長の弟で、今年から立ち上がる新ブランドのブランドマネージャーだ。
正式な役職名はアパレル事業部長。
確か、私より3つ年が上だったはずだから、27歳?
ちなみに社長とはひと回り年が離れていると誰かから聞いた。
あと、間にお姉さんがいて、そのお姉さんは海外に住んでいるとかいないとか。