溺愛オフィス
私は思いついたことを声にする為、
彼の名を少し強めに呼んだ。
「思ったんですけど、私とこうして飲む時間があるなら、KAORIさんと飲めたんじゃ?」
こうして仕事も切り上げられたわけだし、撮影時のモチベーションを考慮しても、KAORIさんを優先するのはリアライズにとっていい方向に働く気もする。
元恋人というのを考えると、桜庭さんにはちょっと申し訳ない気持ちにはなるけれど。
一度くらいは……と思いかけたところで、桜庭さんが小さく息を吐いた。
「嫌なんだよ、必要以上にあいつと関わるのは」
「……元カノだからですか?」
私の質問に答えたくないのか、桜庭さんは無言になってしまう。
「すみません、余計な──」
余計なことでしたよね、と。
そう続けるはずだった私の言葉。
けれど、それは最後まで紡がれることはなく。
「あいつは、俺を利用した女だから」
少しだけ弱さを含んだような、桜庭さんの声に遮られた。