溺愛オフィス
人に悟られないように溜め息を吐いて、顔を上げる。
目の前には、この辺りでは有名な大学病院。
今、父が入院している病院だ。
ここに辿り着くまでの道中、変に過去の恋を思い返してしまったのも、原因となってる父に会うからだろう。
土曜日の面会時間は午後のみの平日とは違い、午前10時からと長い。
今日お見舞いに行くと決意したのは、昼を過ぎてからだった。
元々何も予定は入っていなくて、朝起きてから悩んで、悩んで。
昼食をとり、ようやく気持ちが上向きになったので、気合を入れて家を出たのだ。
病院のエントランスからすぐのところに併設されているフラワーショップでお見舞い用の花を購入し、入院病棟へ向かう。
父に会うのは両親の離婚以来なので十年振り。
ナースステーションで病室を確認し、受付を済ました時だった。
「あら、柊奈ちゃん」
聞き覚えのある声に呼び止められ、相手の姿を見た瞬間、私は少し安堵した。