溺愛オフィス
──という話はさておき、流石に夕飯までお世話になるわけにはいかない。
しかも、さっきは泊まり前提みたいな発言もあった。
益々そこまではという気持ちが強くなり、私は桜庭さんに今のうちに帰りますと告げたんだけど……
「今から出て、途中で何かあるより、ここでやり過ごした方が賢いだろ」
当たり前のように私の願いは一蹴され、桜庭さんは冷蔵庫から玉ねぎとウインナーを取り出した。
それから、右手で包丁を手に取り、左手で玉ねぎを押さえる。
でも、押さえる手は猫の手ポーズじゃなくて。
「さ、桜庭さん!」
「何だ?」
私は慌てて桜庭さんの隣に立った。
「それじゃ、指を切っちゃいますよ」
こうですよ、と、私が自分の手で猫の手の形を作ってみせる。
それを確認した桜庭さんは、素直に真似して玉ねぎを切り始めたのだけど……
どうにも、手つきが危なっかしい。