溺愛オフィス


多分、細かく話したのは美咲以来で。

桜庭さんは、私が話している間、口を挟むことなく静かに聞いていてくれた。

今日、入院している父に会った時のことも含め、全てを話し終えると。

桜庭さんはふと立ち上がり、キッチンに向かう。

やがて戻ってきた桜庭さんから差し出されたのは、私の好きな少しの甘めのコーヒー。

それを両手で受け取ると、桜庭さんは少し間を空けて、私の隣に腰を下ろした。

そして──


「前にも言っただろ」


おもむろに、そんな風に言われる。


「え……?」


私が首を傾げると、桜庭さんはふっと表情を緩めて。


「お前は変われるって」


以前、少しだけ勇気を貰えた言葉をもう一度口にしてくれた。


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