溺愛オフィス
「……はい。覚えてます」
温かいコーヒーを両手に包んだままで小さく頷く。
すると、桜庭さんはツ…と視線をテレビ画面へと移した。
放映されているは、バラエティ番組で。
液晶の中の楽しい雰囲気に、ほんの少しも笑わない私たちは、はたから見れば奇妙に見えるだろう。
司会者の一言にゲストの女優さんがキラキラした笑顔で笑う声。
その明るさに、桜庭さんの落ち着いた声がかぶさる。
「蓮井の父親には会ったわけでもないからどんな人物かは知らない。それと、俺は他人だから、お前の父親のことで何か出来るわけでもない」
突き放すような言葉に、チクリと胸が痛んだ。
でも、桜庭さんの言っていることは間違ってない。
私と父の間にある問題は、私が自分で解決しなければならないのだ。
「……ごめんなさい。変な話して、迷惑ですよね」
コーヒーカップをテーブルに置いて苦笑いを浮かべると、桜庭さんは私に真っ直ぐな視線を向けて。
「迷惑かどうかは、かけられる俺が決めることだ」
今はそう思ってない。
言い切ると、桜庭さんは再び唇を動かす。