溺愛オフィス
「桜庭さんこそ、早いですね」
まさか私より早い人がいるとは思わず。
しかもそれが桜庭さんだなんて。
木造の階段を下った先に広がる地下スタジオは、壁も床も打ちっぱなしのコンクリートが広がっている。
桜庭さんは、部屋の隅に設置されている長テーブルに寄りかかり、目を通していたであろうシステム手帳を閉じた。
「車で出たら、予想より早く着き過ぎたんだ」
そう告げて、テーブルの上の缶コーヒーを手にとると、細い喉仏をコクリと動かし流し込む。
「そうだったんですね。あの、土曜日はありがとうございました」
お礼を口にした直後、思い出してしまう日曜日の朝の事。