溺愛オフィス
──ダメだ。
思い出したら、また胸が騒ぎ始めた。
落ち着かせようとそっと息を深く吸い込んで吐き出す。
でも、桜庭さんから香るコロンの匂いが、ベッドにも染み付いていたのを思い出してしまって、効果は得られそうにもない。
密かに焦る私に気付かない桜庭さんは、缶コーヒーを再びテーブルの上に戻す。
「体調は大丈夫か?」
「はい。桜庭さんのおかげです」
あの日、あのまま公園から動けずにいたら風邪をひいてしまっていたかもしれない。
熱なんて出してしまったら、今日の撮影もきっと迷惑をかけていただろう。
そうならずに済んだのは、桜庭さんのおかげ。
からかわれて振り回されることもあるけど、本当は、そんなのチャラに出来るくらい感謝している。
「今度、お礼させてください」
台風からかくまってくれただけでなく、私の心を軽くしてくれた桜庭さん。
そんな彼に何か返したくて微笑んで口にしたら。
「それなら、本当に俺の目覚ましになってもらうか」
昨日の朝のような意地悪な笑みを浮かべて返されてしまう。