溺愛オフィス
「おはよーございまーす」
階段を下りる靴音と共に、壮介君の声が聞こえて。
私は弾かれるように顔をそちらに向けた。
「お、おはよう壮介君っ」
どもりながらも明るく挨拶を返して私は笑顔を浮かべる。
表に出ようとしているそれを
必死に押し隠して。
壮介君が肩にかけていたマスタード色のボストンバッグをテーブルに置くと、桜庭さんも彼に挨拶をした。
そして、壮介君に続くように入ってきた深水さんと今日の撮影について話を始める。
視線が桜庭さんを追ってしまっている事に気が付き、私は慌てて顔を逸らした。
ずっと持ったままだった牛革のハンドバッグと、差し入れにと用意したお菓子の入った紙袋を長テーブルの上に置く。
その直後──
「柊奈さん、チェック手伝って」
今日、壮介君からKAORIさんが着る衣装のチェックを頼まれて、私は頷いた。