溺愛オフィス
クスッとKAORIさんが笑うのが耳に届いた気がする。
だけど、思考がストップしかけている私には、それが現実だったかは曖昧で。
焦った表情の松岡さんが立ち上がって、綺麗なハンカチで動くことを忘れた私の顔を拭いてくれた。
直後、壮介君が駆けつけて、コーヒーを被った私の姿を確認すると、ムッとしてKAORIさんを見る。
「あんたさ、さっきから──」
壮介君は文句を言おうとしたんだろう。
けれど、私は壮介君の腕を引っ張って、それを制止した。
ここで揉めたらダメだと思ったからだ。
確かに私は気がきかなかったと思う。
コーヒーをかけられたのはわざとなのはわかってるけど、でも、原因は私にあるのだ。
悲しさや悔しさはゼロじゃない。
それでも、今は仕事を優先させなければ。
「私は大丈夫。KAORIさん、本当にごめんなさい」
プロジェクトの、みんなの足を引っ張りたくない。
その気持ちを胸に、私はKAORIさんに頭を下げた。