溺愛オフィス
桜庭さんはロックを解除し、ドアを開ける。
ハンドルは右らしい。
エンジンをかけると、桜庭さんが車内から早く乗れと口を動かして私を急かした。
「お邪魔します……」
送ってもらうという申し訳なさが手伝って、控えめに挨拶しながら、乗り込んだ車内は、黒と茶のシックな内装。
シートもなかなかの座り心地で、やっぱり高い車なんだろうなと改めて思ってしまった。
シートベルトを締めると、桜庭さんはアクセルを踏んで車を発進させる。
車内には、ラジオ番組から流れる洋楽。
桜庭さんは最初に私の家の住所を確認したのみで、それ以降は言葉を発してしない。
な、何か話題を!
無言のままじゃおかしい……よね?
送ってくださってありがとうございます…は、最後の方がいいのかな?
男の人と二人きりという慣れない状況が、私の頭を混乱させていく。