溺愛オフィス
「すみません、わざわざお越しいただいて」
「いえ、こちらが無理を言って時間をとってもらいましたので」
丸いテーブルを挟んで座る松岡さんの態度は穏やかだ。
「あの……今日は、KAORIさんはこちらには?」
「今はレッスンスタジオの方にいます」
「そうなんですね……」
「蓮井さん、申し訳ないです。KAORIの我侭で振り回してしまって」
「いえ。私も配慮が足りなかったので。一度、しっかりとKAORIさんに謝りたいのですが……」
そして、私は続けて、新ブランドにはKAORIさんが必要なのだと訴え、今一度考え直してもらいたいと話した。
けれど……松岡さんは小さく頭を振って。
「大変申し訳ないんですけど、謝罪があってもなくてもKAORIは御社とは仕事をするつもりはないようで……」
希望はゼロに近いことを告げた。