溺愛オフィス
「利用できるものは利用するとこだ。仕事の為に、カズ。お前がされたようにKAORIを利用すればいい」
社長は桜庭さんを親しげに呼びながら、穏やかではない言葉を口にした。
そう、か。
社長は桜庭さんとKAORIさんの間にどんなことがあったのかを知っているんだ。
……でも、いくらなんでも"利用する"なんて。
私は、桜庭さんにそんなことをして欲しくない。
そう思った刹那。
「俺は、クズになるつもりはない」
きっぱりとした桜庭さんの声が聞こえて、私は胸を撫で下ろした。
けれど、社長は短い笑い声を漏らした後……
「クズ? 見ようによっては賢いよ」
捉え方次第。
とにかく、早く結果を出せ。
そう続けて。
「出してくれ」
運転手の秘書に頼む。
直後、車のウィンドウが閉まって。
車は、雨に打たれる桜庭さんを残し、発進した。