溺愛オフィス


『できない? 蓮井さんは私が言わなくてもやってくれたのに、上司であるあなたはできないんだ?』


私を引き合いに出したKAORIさん。

松岡さんは桜庭さんにそんなことまでしなくてもいいと声に出したけど。


『ふふ、凄いよね。トップって。かつての恋人が、私の為に頭下げちゃうんだもん』


桜庭さんは、無言で綺麗に頭を下げた。

松岡さんからそう聞かされて、私は知らず拳を強く握る。


仕事をしているなら、何かトラブルがあった時に頭を下げることはある。

時には、理不尽だと思いながら。

時には、心から願いながら。


きっと、桜庭さんも新ブランドのことを思って頭を下げたに違いない。

なのに──


『あ、約束したもんね。考えないと』


KAORIさんは楽しそうに考える素振りを見せた後。


『んー、やっぱり私、やりたくないな』


そして、続けて口にした理由が……


『もうね、むかつくの。あの子も、一陽も』


だから、一陽たちの働く会社になんて協力したくない。

KAORIさんはそう言うと、もう用はないとばかりに去ったんだとか。


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