溺愛オフィス


「ありがと」


どうにか自分の役目が終えられて、本当に良かった。

そう思ったら、ドッと肩の力が抜ける。

カメラマンさんにも労われ、スタッフのみんなからもお疲れ様と声をかけてもらって。

私もひとりひとりに労いと感謝の言葉を返していった。


そして、最後に私の前に立ったのは桜庭さん。


「お疲れ」


桜庭さんは、冷たいお茶が入ったプラスチックのコップを私に差し出した。

喉が渇いていた私は、それをありがたく受け止る。


「お疲れ様です。冷たいものを飲みたい気分だったので嬉しいです」


告げて、私が喉を潤すと、周囲で片付けが始まった。

私たちは邪魔にならないよう、少し端の方へと移動する。

再び、コップに口をつけたところで、桜庭さんが「かなりいい写真が撮れてたぞ」と、どこか満足そうに言った。


「桜庭さんのおかげです」


桜庭さんなりの態度と言葉で和ませて、励まして。

そうやって私の背中を押してくれたから、私はモデルという役目を無事にこなすことができたのだ。


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