溺愛オフィス
モデルとしてのメイクから、自分のメイクへ。
衣装も、新ブランドのものから、自分の服へ。
髪型も少し直して、鏡の中の自分が見慣れた姿なのを確認すると、私は腕を高く上げて伸びをした。
スタジオの片付けは順調なようで、さっきから階下では人が出入りする音がしている。
私が着ていた衣装や小物も、すでに壮介君が車の中に運んでいて、メイクスペースには私の持ち物しか残されていない。
何か手伝えることはないかと、1階に下りようとした時だった。
作業台の上に置いていたスマホが振動していて。
急ぎ踵を返し、相手の名前を確認すれば。
「……おばあちゃん」
それは、父方の祖母からの着信。
祖母とは病院で会った時以来、連絡はとっていない。
「もしもし?」
私の声に、祖母は『忙しいのにごめんね』と口を開いた。
スマホ越しの祖母の声は、少し元気がない。
「何かあったの?」
『それがね……』
気落ちした声で祖母が告げたのは、父は一度退院したものの、今日また再入院となったことだった。
しかも、今度は脳梗塞が原因ではなく……