溺愛オフィス
【歩み寄れたらいいのです】
定時になり、私はデスクを片付けて帰る支度を始めた。
祖母の連絡から四日後。
撮影が終わってからも日々忙しく、今日、ようやく残業せず帰れる日となって。
「お先に失礼します!」
挨拶と共に鞄を手にすると、私は少し足早に会社を出た。
初夏の夕空はまだ明るさを保っていて。
けれど、金曜日ということもあってか、駅に向かうサラリーマンやOLの姿は多く見えた。
数人の集団で歩いている人たちは、これから飲みにでも行くのだろう。
名も知らぬ彼らの楽しげな雰囲気を感じながら私は、目的地である、父の入院する病院へと向かった。
電車で20分ほど揺られ、更に駅から歩くこと10分。
あの日、雨の中で桜庭さんと会った公園を通り過ぎると、現れた大学病院。
私は大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと吐き出した。
しっかりと父にぶつかれるように。
弱い自分に、負けないように。