溺愛オフィス
『悪いな、帰った後に』
機械越し。
姿は見えず声だけなのに、頬が自然と緩んでしまうのを感じた。
「いえ、大丈夫です」
答えると、桜庭さんは今度行われるレセプションパーティーの件を確認し始める。
「──なので、モニターの搬入は直前になるそうです」
『わかった。確認はこれで全部だな』
桜庭さんが言って、私は少し躊躇った後「あの、桜庭さん」と声を発した。
すると、彼は『ん?』と短く返事して、私の言葉を待つ。
まだ、桜庭さんは仕事中だけど。
このタイミングで電話が来たのなら、話した方がいいのかもしれないと思えて。
「仕事の話ではないんですけど、今、少しだけいいですか?」
桜庭さんに尋ねてみた。
また今度にと言われたら改めよう。
そう思っていたら。
『どうした?』
彼は、私の声に耳を傾けてくれた。
そのことに安堵しつつも、時間をとらせてはならないと、すぐに唇を動かす。