溺愛オフィス


「実はさっきまで、父のお見舞いに行っていて……」

『ああ。ぶつかれたか?』

「はい、父の居眠りのお陰で」


話しながら、父が写真を手に眠っていた姿を思い出し、心が少しだけ温かくなるのを感じた。

桜庭さんは『居眠り?』と、電話越しに首を捻るような声を出してから。


『よくわからないけど、よかったな』


普段よりも僅かに柔らかい声を返してくれた。


ホームに流れるアナウンスが、電車の到着を告げる。

通話を終え、電車に乗りこんで。

ふと、窓越しに見た私の口元には、笑みが浮かんでいた。


そして確信する。


やっぱり、私は桜庭さんに惹かれてるんだと。




< 278 / 323 >

この作品をシェア

pagetop