溺愛オフィス
「実はさっきまで、父のお見舞いに行っていて……」
『ああ。ぶつかれたか?』
「はい、父の居眠りのお陰で」
話しながら、父が写真を手に眠っていた姿を思い出し、心が少しだけ温かくなるのを感じた。
桜庭さんは『居眠り?』と、電話越しに首を捻るような声を出してから。
『よくわからないけど、よかったな』
普段よりも僅かに柔らかい声を返してくれた。
ホームに流れるアナウンスが、電車の到着を告げる。
通話を終え、電車に乗りこんで。
ふと、窓越しに見た私の口元には、笑みが浮かんでいた。
そして確信する。
やっぱり、私は桜庭さんに惹かれてるんだと。