溺愛オフィス


高く柔らかい車のクラクションが二回、短く聞こえたかと思ったら、白い車が私の横に停まった。

そして、助手席のウィンドウが下がると。


「蓮井!」


私の名字が呼ばれた。

その声は、もしかしなくても私のよく知る声で。

足を止めて近寄り、腰を折って運転席の人物を見る。

そこにはやはり──


「桜庭さん!」


彼がいた。

休日にも会えるなんて、嬉しい偶然。

桜庭さんは私の手にする荷物を見ると、小さく笑う。


「凄い量だな」

「買い過ぎちゃって」

「一人か?」


尋ねられ、私は「はい」と答えながら首を縦に振った。

すると「この後の予定は?」と聞かれて。

特になかったので私は帰るだけだと返す。

そうすれば。


「よし、行くか」


桜庭さんはそう言うと、手で車に乗れと合図する。


< 280 / 323 >

この作品をシェア

pagetop