溺愛オフィス
【あと数ミリ、です】
ふたつのグラスが軽く重なって音が弾ける。
彼が連れてきてくれたお店は、アジアンリゾート風のレストラン。
オシャレな内装の店内は、キャンドルが灯されていて心地のいい雰囲気。
向かい側、ゆったりとしたソファーに座る桜庭さんが頼んだのは、ノンアルコールビール。
車だからアルコールが飲めないとのことで注文したもので、それならと、私もノンアルコールカクテルを頼んだ。
その際、テキーラを飲んでも構わないとからかわれ、私は改めて「あの時はご迷惑を」と居た堪れない気持ちになったり。
ビールで喉を潤した桜庭さんは、グラスをコースターに置くと、私に「おめでとう」と言った。
「私、誕生日じゃないですよ」
心当たりがなく、思わず首を傾げてしまう。
あ、もしかして。
「モデルの件がひと段落したからですか?」
それなら桜庭さんもだろうと、おめでとうの言葉を返そうとしたら。
「蓮井の父親のことだよ」
桜庭さんは、僅かに笑んでまたビールを口にした。