溺愛オフィス


「送ってく」


ディナー代を奢ってくれた上、そう言ってくれた桜庭さん。

最初は悪いからと断ったけれど、どうせ方向は一緒だと、いつかと似たような事を言われてしまい。

私は今また、桜庭さんの隣に座って流れる夜景を見ていた。

以前、残業して桜庭さんに送ってもらった時は緊張していたけれど。


「ステーキ美味しかったですね」

「オススメだって言っただろ?」

「はい。お店も雰囲気いいし、気に入っちゃいました」


今日までプロジェクトや父のことでたくさんお世話になったからか、話題は探さなくても自然と口に出るようになっていた。

……もちろん、彼を想うが故の別の緊張はある。

今だって……


フロントガラスの先を見つめる桜庭さんの横顔に、ドキドキしているし。


車は夜の街を走り抜けていく。

段々と見慣れた景色が増えてきて、もうすぐ家に着いてしまうのだと思うと少し寂しい。

桜庭さんとはまた会社で会えるのに、そう感じるのは、やっぱり私の気持ちが関係しているからだ。


本当に久しぶりに、誰かを心から想う事ができた。

それが桜庭さんだなんて、高嶺の花もいいとこだけど……


誰かを想うことに逃げ腰だった私には、大きな進展。


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