溺愛オフィス
やがて、ゆっくりとブレーキがかかり、車が停まる。
私の住むアパート前に到着してしまったのだ。
「ありがとうございました」
桜庭さんと過ごす時間が終わってしまうことに未練を感じながら、シートベルトを外す。
すると、桜庭さんの声が「蓮井」と私を呼んで。
視線を彼へと移すと。
「変われたかどうか、試してみるか?」
桜庭さんは言いながら、私に手を差し出した。
応接室での出来事を思い出し、彼が何を試そうとしているかを悟る。
案の定、桜庭さんは「ほら、手」と催促してきた。
「た、試すも何も、前もしたじゃないですか」
桜庭さんの手に触れるのは嫌じゃなかった。
それは今だって変わってないはず。
……というより、嫌じゃないけど、前と今とでは私の気持ちが変わっている。
だから、どちらかというと触れたい気持ちはあるけど、意識し過ぎてどうなってしまうかわからないわけで。
なので、恋愛経験の少なすぎる私としては、どうしたらいいのかと半ばテンパり気味に考えあぐねていたら。