溺愛オフィス
【予想もしてなかったのです】
「そうですね、そのPR方法でお願いします」
雑誌社の担当さんと電話での確認作業を終え、受話器を置く。
そして息を吐くと、まるで癖になっているように、私は視線を桜庭さんへと移した。
桜庭さんは打ち合わせ用のデスクで、深水さんとデザイン画を見ながら話し込んでいる。
……あれから、桜庭さんからは何のリアクションもなく。
私もどうしていいのかわからず身動きの取れないまま日々は過ぎていき──
気付けば、夏の暑さは本格的なものへと変わっていた。
視線を自分のパソコンに戻す。
画面にはダイレクトメール作成の為に呼び出した顧客管理表。
私はそれをぼんやりと見つめながら、あの日……
桜庭さんにキスされそうになった時のことを思い返していた。