溺愛オフィス
「はー、美味かった。柊奈さん、どうだった?」
店から出て、会社に戻る道中。
桜庭さんと深水さんが並んで歩き、その数歩後ろを私と壮介君は歩く。
「美味しかった。今度美咲にも教えなくちゃ」
答えて、私は前を歩く桜庭さんの背中を見つめた。
キスをされそうになったことは、もう忘れた方がいいのかもしれない。
からかわれた類だと思って今まで通りに接する。
桜庭さんが普通なら、私もそうあるべきで──
「さっきから、桜庭さんのことばっか見てる」
仕事の為にも、心を入れ替えようと考え事をしていた私の耳に届いた壮介君の声。
それが、まさに今、頭の中に廻らせていた人のことで動揺してしまう。
「そ、そんなことは」
ないよと言い切る前に、壮介君が「あるよ」と口にして。
それから……
「俺も、柊奈さんのこと見てるんだし」
「な……」
ストレートな言い方に、私はちょっとだけ頬が熱を持つのを感じた。