溺愛オフィス
「プロジェクトはどうなるんだろう」
定時も過ぎ、残業の合間の休憩中。
フロアの一角にある休憩コーナーで、私は壮介君と二人、椅子に腰掛けながらコーヒー片手に声を零した。
「その辺りは、しばらく海外から指示があるんじゃない?」
私の問いに答えた壮介君は、そのまま話を続ける。
「まあ、実質的にはほぼメインの広告は終わってるし、あとは柊奈さんが街中に貼り出されるまでの調整だろ?」
グランドオープンに向けては全体で動くし、桜庭さんがいなくてもどうにかなる。
そんな風に聞こえる壮介君の言い方に、私は相槌さえも返せなかった。
確かに、桜庭さんが海外に行ってしまっても会社はまわる。
ブランドマネージャーというポジションは重要だけど、それも代わりはいるのかもしれない。
でも、私に個人にとって、桜庭さんの代わりになりえる人は……いないのに。
例え、想いが叶わないとしても、彼の近くにいたいと願ってしまう私は、我侭なんだろうか。
桜庭さんのいない日常を想像して、なんだか少しだけ泣きそうになる。
それを、唇を噛み締めることで留めていたら……
「柊奈さん、前に聞いたよな。俺がアルモにバイトとして入った理由」
急に、壮介君が話題を変えて。
「あの時、柊奈さんがいたからって言った冗談さ……冗談じゃないんだ」
真剣さを漂わせた笑みを浮かべて、そう言った。