溺愛オフィス
「父親と何かあったとか?」
聞かれて、私は頭を振る。
「ないです。桜庭さんのおかげです」
そう、だ。
伝えたいのは、ありのままの気持ち。
臆病だった私を変えてくれた桜庭さんに、上手くなくてもいいから、素直な想いを。
「桜庭さんがいたから、ぶつかれたんです。進めたんです」
桜庭さんは、話す私をただ黙って見つめていて。
その涼しげな瞳に、心臓がこれでもかというほど激しく高鳴る。
「凄く、感謝してて。桜庭さんは私にとって特別な人、なんです」
だから、ここまで来た。
「それを、会えなくなる前に、ちゃんと伝えたかったんです」
例え受け入れてもらえなくてもいいから。
「……特別、な」
私の言葉に、桜庭さんは緩く口の端を上げた。
「それって、つまりどういうことだ?」
「どういうって……」
そんなのひとつしかない。
というか、桜庭さん絶対わかって聞いてる。
だって、微笑みが何だか意地悪だ。
でも……ちゃんと、伝えないと。